すると、ふしぎなことには、いつとはなしに、小さい五色の玉ができあがって
きて、これが、六助の頭上に高く舞いはじめました。六助は、
「きっと神さまがおいでになったのだ」
と思い、いっしょうけんめい、
「まことに、神さま、ありがとうございます。しかし、私はどうなってもかまいません
から、助かるものなら、どうぞ、せがれをお助けください。どうぞ、せがれを・・・」
とさけびますと、玉はフワリフワリと飛んで、やせおとろえている一人息子の上に
きました。そして、花の穴から呼吸とともに溶け込んで、はいってしまいました。

つぎの日も、おなじ五色の玉が飛んできて、しらぬまに、こんどは病人の吸う
スープの中にとけこんで、ノドから腹の中へはいっていきました。

こんなことが、たびたびかさなって、ついには、医者からもサジをなげられていた
大病人は、だんだん元気づいて、日ならずして、まったくもとの身体になりました。



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こうして、八兵衛も六助も、この村での生神さまのようにみんなからいわれて、
たがいになかよく神さまを第一にお祭りし、村人をいたわって、さかえてゆきました。

めでたし  めでたし。



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さあ家中は大騒動で、今までホコリだらけにしていた神床を急に清めてお燈明を
あげるやら、他人にはピタ一文出すのもいやなくせに、十里も二十里もあるところ
から自動車で院長さんをお迎えするやら、あらゆるてだてをつくしましたが、
それらもなんのききめもなく、病気はだんだんおもくなって、ついには骨と
皮ばかりになってしまいました。

こうなると、さすがの六助も、ごはんもろくくろく食えないほどしょげて、いままでの
自分の心得のわるかったことをシミジミと悔い、神さまにたいしても、心の底から
おわびをし、村の人にも、心の底から好意をもって、なにくれとなく世話を
しはじめました。そして、もうけただけのお金は、惜しげもなく村のために
まきちらしました。

さあ、こんどは、村の人たちも、しだいに悪口をいわなくなったばかりでなく、
ひとりが、
「なんと、六助どんも、ちかごろはかわったもんだね」
といえば、もひとりが、
「人間もあれだけかわればかわるものか」
と感心するようになりました。



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これはさておき、欲深の六助どんは、最初のあいだは金があるにまかせて、なにごとも
調子よくいっていましたが、れいの「ああ、いやだ」「ひとをバカにしている」という口ぐせと、
村人の悪口とがしだいに凝って、いつのまにやら、ひとつの灰色の玉ができあがりました。

この玉が、ある晩、どこからともなく飛んできて、六助さんの寝床の上の天井のあたりを
ブラついていました。そして、スキがあったら、六助さんの寝床の中へもぐりこもう
もぐりこもうとしているのでした。六助さんはビックリして、
「やい、バケモノ、おれの身体へ近寄ってみろ。こなみじんに打ちくだいてやるぞ」
と、口では大きなことをぃっていましたが、腹の中はビクビクで夜もろくに眠ることが
できませんでした。



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あるとき、玉がいいました。
「でも六助さん、私は、どうしたものか、あなたが好きでたまらないのです。
それだのに、あなたが私をおきらいになるのでしたら、いたしかたありません。
私は息子さんと仲よしになります」

その日から、今までひとなみはずれて丈夫であった六助さんの一人息子は、
急にねついてしまって、ウンウンとうなりはじめました。





はなしかわって、ある晩のこと、八兵衛さんのところへ、一人の美しいお姫さまが
たずねてきました。そして、もうしました。

姫「お爺さん、こんばんは。今日から、わたくしがあなたのご看護をいたします」

八兵衛さんは、不審そうな顔つきで、
八「はていっこう見なれぬ方じゃが、いったい、あなたはどなたでしたね」
姫「わたくしの名は、"コレハアリガタイ、 アア、ウレシイ" ともうします」
八「まるでわしの口ぐせのような名前だね」
姫「それはそのはずです。あなたがわたくしをつくったんですもの」
八「わしは、おまえさんみたいな人を生んだおぼえはないがね」
姫「いいえ、いいえ。わたくしはあなたの子にちがいありません。あなたの
口ぐせの"これはありがたい、ああ、うれしい"という言葉が凝りかたまって
できたわたくしなんですから」

こういって、いきなり座敷へあがりこんできて、おひめさまはいろいろと世話を
しはじめました。

お姫さまが背をなでてくださるたびに、急に熱もひき、食事もすすんで、
二、三日のうちに、全快してしまいました。



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すると、ふしぎや、お姫さまは、急に真っ赤な玉とかわって、ポイと八兵衛さんの口の中へ
飛び込んで、アッというまにグ、グゥーとノドを通って、腹の中へおさまってしまいました。
それから八兵衛さんは、みるみる若くなって、三十前後の男ざかりの姿となって、村の人を
おどろかせました。



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あるとき、八兵衛さんは、あまりはたらきすぎて、病気にかかりました。
村の人たちは、気のどくがって、つぎつぎにおみまいにまいりました。

村人「八兵衛どん、ちと、おかげんがわるいそうじゃのう。ちっとはよいほうかえ」
とたずねると、八兵衛は平気なもので、
「これは、ありがたい。ようたずねてきてくださった。ちと無理をしたもんだから、
くたびれがきたのだろう。しかし、今日は、おまえがたずねてきてくれたので、
もうなおるわい。ああ、うれしい」

こういうふうでしたから、村の人たちも、
「八兵衛さんは、いつ会っても気持ちのよい人じゃなあ」
と Aがいえば、Bは、「じっさい、あんなよい人は、めったにありゃしないな。
こんどの病気も、はやくなおるとよいがな」 Cも Dも、Eもくちをそろえて
「ほんに、そうじゃ。はやくよくなるようにみんなで、ここでお祈りをしよう」
と、よるとさわると、八兵衛さんのうわさばかりしていました。



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ある村に、二人のかわり者のお爺さんがありました。

一人は八兵衛というて、まずしいその日ぐらしのお百姓さんであり、
いま一人は六助というて、お金持ちの隠居でした。

八兵衛さんは、わかいときから、どんなことにたいしても、「これはありがたい」
「ああ、うれしい」というくせがあり、六助さんは、その反対にちょっとしたことにも、
「ああ、いやだ」「ひとをバカにしている」という口ぐせがありました。




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イノシシとブタとが、あるところで出あいました。

イノシシ「おい、ブタ公、きさまは身体のつくりはおれとそっくりじゃが、おとなしいばかりで、
いっこう意気地のねえやろうじゃねえか」

ブタ「うん、まったくそうだ。おれももっと強くなりたいとおもうのだが、どうも強くなれぬ」

イノシシ「なれぬことがあるものか。おまえたちもおれといっしょに山に来て、すこし浩然の
気をやしないたまえ。だいたいおまえの生活はなんだい。のそりのそりと小さい小屋の中で、
イヌのくそまで食っていて、よいかげんに肥えたかとおもうと、コロリッところされてしまって、
人の口にいれられるとは、いったい、あんまりなさけなさすぎるのではないか」

ブタ「それでは、おれも発憤したから、よろしくたのむよ。ついては、おれが逃げてしまっては、
かずがたらぬというので、主人が不審がるから、おれが山へ行って修業してくるあいだ、
しばらく、おまえ、かわりにオリの中へはいっていてくれ」

そこで、はなしがまとまって、イノシシはオリの中へはいり、ブタは山へと遁走しました。

さて、数年たって、山へ行って修業したブタは、もうりっぱな一人前のイノシシ武者となって、
はるばるとこいしき人里へと帰ってきました。そして、オリのところへ行って、

「おい、兄弟、長いあいだ、きゅうくつなめをさしたね。おかげで、やっと一人前になって、
いま帰ったよ」とのぞきこみました。

こちらはイノシシ、ながいこと、せまいオリの中に飼われ、おとなしい連中ばかりといっしょに
いたため、とうとうほんもののブタになってしまっているのでした。

そこで、「おや、いまお帰りか。ところで、なんと、おまえさんの顔は、おそろしくすごくなったね。
それにまぁ、りっぱな牙まではえて」

「あっ、おまえの牙はどうした」

「こうしてここにいるあいだに、しらぬまになくなったんだよ。わしは、もう、山にうつるのは
いやになった。わしは、おまえさんのようにおそろしい姿は、見るのもいやだ」

「なんと、弱虫め。そんな意気地のねえことでどうする。さあ、約束どおり、
おまえとおれといれかわろう。おれはこのオリの中へはいって、みんなのやつを、
りっぱなイノシシにしこんでやるんだ」

そこで、二匹は、いれかわりになりましたが、そのご、しばらくたってから、いきおい
こんで帰ってきたイノシシは、またもとのブタとなり、こわごわ山へ帰ったブタは、
もとのイノシシになってしまいました。

なんでも、ちょとん〔猪豚〕のことでかわるものです。





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かつらぎ ぼたえもん ・・・。

筆者である  「かつらぎ ぼたえもん」 とは、大本三代教主補・出口日出麿先生のことです。
明治30年12月28日、岡山県倉敷市で誕生・・・。 平成3年12月、綾部でご昇天になりました。

高等学校時代から、京都大学在学中にかけて、大学ノート20数冊に記した文章は、その後
「信仰覚書〔全8巻〕」 として、(株)天声社から発表され、また、「生きがいの探求」「生きがいの創造」
「生きがいの確信」の三冊は、講談社から「生きがいシリーズ」として発表されるなど、多大の感動と
反響を巻き起こしました。

「ぼたえもん童話集」は、若き日の著者が、同じく大学ノートに書き残していたもので
その数は、約30編にのぼります。

今日では、 (株)天声社にて、 6冊 〔11編収録〕が、画・でぐちみつぎ 氏で発売されています。

出口 瑞〔でぐち・みつぎ〕氏は、昭和33年2月11日生まれ。京都府立亀岡高校卒業。
嵯峨美術短期大学日本画グループ卒。同大学専攻科、総合美術研究所修了。
京展、京都日本画美術展等入選。札幌・京都等にて個展、グループ展、二人展、開催多数。
著者 かつらぎ ぼたえもん〔出口日出麿氏〕の孫にあたります。




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引き続き、『ぼたえもん童話集』から、 「猪と豚」 「八兵衛と六助」の二編をご紹介致します。
















〔地歌〕鞄の中から取りだした、金金光る金印、右手に構えた大鋏、
チャキ チャキ チャキといわせれぱ  決心したる権作も、二、三歩後へ
タジタジタジ。

爺=権作を追うように近寄って=「さあ、眼をあけないか」

=権作ちょっとあけて、おそろしさにまたつぐむ。爺さん笑いながら何か
口の中で呪文をとなえて、左手に持っている眼を権作の左右両眼の上に
かわるがわる押しつける。この時、大鋏は眼の上でチャキ チャキいわすだけ。
と、たちまちすでに眼の玉は取りかえられている=

権=キョロ キョロ あたりを見まわして=「あっ、見える 見える、すてきに見える。
何もかも黄金色じゃ・・・妙  妙、 これは妙・・・」と喜びまわる。

太郎松、次郎助、お千代もこのさまを見て、われさきにとあらそって、

次「お爺さん、うらには、"美人印"を入れてくだされ」

千「うらは左に"お金印"、 右に"美人印"」とつめ寄る。

爺「待て待て、順番だ  順番だ」

=と制しつつ、まえと同じようにして手術をしてやる。手術が終わるや、
各自それぞれに=

次「これは奇妙、山も川もなんという美しさだ。あっ、お千代のカボチャづらが
観音さまのように見えだした。 ーーどこもかしこもまるで夢のような美しさだ」

千「オホホホ、アハハハハ、まアなんでこんなにうれしいのだろう。アハハハハ、
ああうれしや、おもしろや」

太=片手で右の眼をふさぎ、左の眼だけをあけて見まわしながら =「馬の
クソまでが黄金の塊に見えるわい。そこらの小石はみな金貨や銀貨ばかりじゃ。
ーーおっと、こちらはこうすれば」=で、こんどは右の眼をひらいて=「お千代坊の
あばたづらまでが、弁天さまに見えるわい」

=と、お千代を見あげる。お千代、わざとらしく口をとがらす=

四人「おっと、がってん」

=と歌に合わせて身ぶりよろしく四人は踊りはじめる。

爺さんは手をうって拍子をとる=その歌

めでたや  めでたや  めでたやな   「美人印」で見るなれば
かぼちゃのおかかが観世音   梅干し婆アが弁財天
めでたや  めでたや  めでたやな   「笑い印」で見るなれば
雷さんは高笑い  閻魔も地蔵に見えてくる

めでたや  めでたや  めでたやな   「お金印」で見るなれば
馬のクソでも金の山   木の葉、草の葉、札の束

〔四人合唱、調子かわる〕

森の神さん ありがとう    森の爺さん ありがとう
鞄いっぱい眼を持って   明日も忘れずやって来な

=かくて四人は下手に、爺さんは上手にそれぞれ退場

                          ・・・幕・・・=



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爺「おいおい売り物にさわるなよ。これはそもそも生きた眼じゃぞ。
こんどこのたび森の神さまからご命令で、お前たちの眼と、この新しい
眼と取りかえてやるために、わしがはるばるここへやって来たのだ」

次「えっ、何だって?  眼を入れかえる?」

爺「そうだ」

権「バカバカしい、そんなことがーー」

太「できよう道理がない」

千「お爺さん、いくら神さまのご命令じゃて、親ゆずりの眼と、一銭五厘の
眼とをかえてもらう者はあるまいよ」

爺「しかし、これはおまえたちのために大変幸福になることなのだ。
おまえたちの半腐れのヤニだらけの眼ン玉と、この水晶の眼ン玉と
取りかえてみい。まるで世の中がかわったように見えるぜ。それに
この眼ン玉は、おまえたちのおのぞみどおりに、たとえばお金がほしい
と思うものは、"お金印の眼ン玉"を買いさえすれば、世界中のものが
みんなお金になるし、べっぴんがほしいと思うものは、"美人印"を買うて
はめれば、どんなすべたのかかあでも天下第一の美人に見えてくるし、
そのほか不幸つづきのものは"笑い印"と取りかえれば、おかしくておかしくて、
しょうがなくなるし、もしも、あんまり笑い上戸で腹が立ったことのない人間が
あるならば、"泣き印"をもとめさえすれば、なにを見ても泣いているように
見えてくる、という、しごく重宝便利な眼ン玉なんだ。
それに、わしは、おまえたちも知っているとおりの魔法でもって、ちっとも
痛くないようにその眼とこの眼とを取りかえてやるのじゃ」

権「そんなら、お爺さん、さっそくながら、わしに"お金印"を売ってくんなされ。
一番上等の"お金印"だよ。そして今ここで手術をしてくだされ」

太=小声で= 「あのお爺さんは魔法使いで、今まで1度もウソを言ったことは
ないからね」

次、千「きっと、ほんとだろう」



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2013年7月

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