さて虎猫先生は、いよいよほんものの虎になりすまして、
今はたくさんの虎たちと平気で交際をつづけておりました。
ところが、ある年のこと、山が飢饉で、なにひとつ食べる
ものがなくなってしまったので、よんどころなく、虎たちは
三匹、五匹と隊を組んで、里へ出て来て、手あたりしだい、
家畜から人間までも食いはじめました。
れいの虎猫先生も、ほかの虎たちとともに村へおりて
来て、食物を探していた時、ちょっとしたことから、ここに
たいへんな事がおこってまいりました。
それは、ある人家へ押し入って、さかんに鶏をパクついて
いた時、どこから出て来たのか、一匹の小鼠が「チュウ
チュウ チュウ」となきながら、虎たちの前を駆けぬけよう
としました。
これを見た虎猫は、急にふだんのつつしみを忘れてしまって、
「ニャオン」と一声叫んで、その鼠をくわえました。
「おのれ、のらネコめ、おれたちをよくも今までだましやがったな」
といいながら、ほんものの虎は、グシャッとひとかぶりに、虎猫
を嚙みころしてしまいましたとさ。
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