ある日のこと、海岸の松林でネコが昼寝をしていたところへ、
タコがノソノソ海からあがって来て、
「いよう、よう寝てけつかる。わいも、だいぶ腹がすいてきた。
ひとつ、こいつをごちそうになろう」
と、いきなり、うしろからまわって、れいの手法ではない、
足がらみでネコをしめつけた。
ネコさん、「ニャンちうことだ」とビックリして、目をあけてみると、
煮売屋にまっかになってつるされてある魚とソックリのものが、
いまや渾身の力をこめて自分にくらいついている。
そして、しだいしだいに、海のほうへ引きずりこまんとしているらしい。
「ハハア、これは夢かいな。かねてから一度食ってみたいと
思っていたやつが、むこうからおれに飛びついてくるとは、
まったくうけにいっているわい」と、ネコはニヤリと笑みをもらした。
そして、なんの苦もなく、まず口のあたりに捲きつけている
タコの足から、ガリガリと噛みはじめた。
タコは、「オヤオヤ、こんなはずではなかったに。なにっ! もう
ひときばり気ばってやろう」と、なにしろ八本も持っている足の
ことだから、その中の一本くらい取られたって、たいして
こたえぬとみえて、なおもけんめいにまきつけた。
ネコは、ガブリと一口噛みとったタコの肉のうまみで、
いよいよ調子づき、やつぎ早に第二、第三の足とパクついて
いくので、いっかな頭の悪いタコくんも、
「こいつあ生命がねぇ」と、やにわに足をといて逃げ出した。
が、もう、その時は遅かった。そこから波打ちぎわまでは四、五間
の距離がある。タコの全速力もついにネコの一跳びにおよばなかった。
あわれやタコの大頭は、ネコの毒牙に脳味噌をあらわしてしまった。
このことがあってから数日たった昼さがり、
ネコはれいの松の根元で、大きなアクビを一つしながら、
このあいだのタコのうまかったことを思い出していた。
話しかわって、ネコにやられたタコの子どもたちは、どうかして
敵討ちをしたいものだと相談の結果、一匹のタコが波打ちぎわで、
わざと昼寝をしたふりをしていた。
これを見つけたネコは、「ああ、今日もまたうまいごちそうに
ありつけるわい」と、舌なめずりしながら、波打ちぎわへやって来た。
タコはスルスルと水の中へ逃げこんで、ときどき、水面へ浮いては、
ジッと見まもっているネコの間近へ寄って来る。ネコはときどき水の
上をチャプチャプとたたいて、タコを捕らえようとした。
この時、一匹の大タコは、コッソリとネコの背後にまわり、
からみつくとどうじに、いきなり波の中へ、さそいこんでしまった。
待ちうけていたたくさんのタコの一族は、今こそとばかり、
ネコの足からシッポから、ところかまわずからみついて、
とうとうネコをおぼらしてしまった。
陸の上では強いネコも、海の底では、タコにかなわなかったのである。
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