ある日、王さまは、カナンの心を一つためしてやろうと思って、
「カナン、おまえは今晩あの汗倉の番をしなさい」といって、
一つの鍵をカナンの手にわたしました。
汗倉というのは、この国の宝とする貴重な汗をたくわえておく倉です。
その夜、カナンは夜がしだいにふけてあたりがものしずかになった時、
どんな色の汗がどれだけたまっているのか、ひとつ参考のために
見たいものだと思ったので、なにげなく鍵で倉の戸を開けて、倉の
中へ入りました。
見ると、酒屋にあるような大きな樽の中に、ひじょうに良い香りのする
古い汗が、どれにもこれにも、いっぱいたたえてありました。
「ああみごとだ。ぼくの壺にも、せめてこの百分の一の汗が
たまっていればいいが」
こんなことを思いながら、もうたまらぬほどうらやましくなって
きました。そして、カナンは、
「これをホンのちょっとくらいもらったところで、知れることも
あるまい」
と、夢中で、そばにあった空瓶へ、なみなみと古い汗を
すくい取り、そしらぬ顔をしていました。
翌日、カナンは、昨日ぬすんできた汗をダクダクとつぎこんで、
「王さま、いっしょうけんめいはたらきまして、やっと
いっぱいにいたしました」
と、うやうやしく壺を両手にささげて、王さまの前へ進み出ました。
「どれ見せろ」
王さまは壺を取ってのぞいて見ましたが、すぐおそろしい顔をして、
「しょうこりもない小僧だ」
とカナンの汗壺を床へぶつけて、くだいてしまいました。
王さまはカナンのたくらみをよくご存じだったのです。そして、
「サァこんどはこの壺だ。おまえはいつまでも苦しむのがすきと
みえるワイ」
と、前の三倍もある大きな壺を出されました。
カナンは、しおしおと新しい壺をかかえて部屋へ帰ってきました。
はじめて、みんな自分がまちがっていたと悟りました。
そして、人間というものは、どこまでも自分の力で自分の
ことをしてゆかねばならぬ、不正直なことは、みんな神さまが
ご存じなのだと、しみじみ後悔いたしました。
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