そして、それからは、他人をうらやまず、他人のものをほしがらず、
つねに身をへりくだって、わきめもふらずにはたらきました。
壺の汗もドンドンふえていって、ちょうどこの国へ来てから三年目に、
本国に帰ることを許されました。
いよいよ明日は帰れるという晩は、うれしくてうれしくて、カナンは
胸をワクワクさせながら床につきました。すると夜中ごろに、
「さあ、カナン、目をおひらき」
と耳もとで呼ぶ声がしました。聞きおぼえのある声なので、
フッと目を見開きますと、いつの間にか、寒い風に吹かれ
ながら、家の外に立っているのでした。
「やあ、あなたはいつかのお爺さんでしたね」
カナンはなつかしげに側に立っている白髪の老人に気がついて、
そう呼びかけました。老人は、
「ここは氏神の森だよ。約束どおり、今、連れて帰ってやったところだ。
おまえは三年も修業をやってきたように思っているが、まだ1時間も
たたぬくらいだ。さあ、もうよいからお帰り」
と、いったかとおもうと、その姿は見えなくなってしまいました。
カナンは、
「神さま、いろいろありがとうございました。ご神徳で私も今まで
悪かったことを悟らしていただきました」
と、ていねいにお礼をのべて、まだ自分のゆくえをさがしまわって
いる家へと帰りました。
それから、カナンは、生まれかわったようにりっぱな人間に
なりました。
そして、貧乏人をあわれみ、よくの深い人をしりぞけて、お父さん
のなくなったあとは、王さまを助けて、りっぱな政治をいたしました。
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