ぼたえもん童話集 『 虎猫の失敗 』②

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さて、主人と虎猫とが、れいのけわしい山道へさしかかった
時のことでした。
近所のくさむらの中から、急にザワザワという音がして、
なにか黒い大きな獣がおどり出ました。主人は、一時は
ヒヤッとしましたが、
「なにっ、虎猫さえそばにいれば、何が出て来たって
大丈夫だ」と思いながら、じっと立ち止まりました。

皆さん、この時の虎猫の驚きというものは、それはそれは、
ひじょうなものでありました。
「ああ、とうとうおれの運もここでつきたか」
と、もはや観念の眼をとじて、虎猫はいっしょうけんめい
ご主人の着物のすそのかげへかくれて、小さくなって
おりました。
ところが、不思議なことには、虎猫の運がまだつきなかった
のか、それとも、この主人が、日ごろから神信心な人で
あったがためか、くさむらからおどり出た大きな獣は、すぐ前に、
平気な人間とちぢみあがっているネコがいるということに気も
つかないで、ガサガサと道を横ぎって、むこうの谷間のほうへ
とおりて行ってしまいました。

「虎猫よ、おまえは強いものじゃ、おまえのひとにらみで、
あれ、あのとおり、狼めも逃げおったわい」
主人はうれしさのあまり、ネコを抱きあげました。虎猫先生は
目ん玉をパチクリさせながら、
「ニャオン、ニャオン」となきました。

皆さん、ネコというものは、ご承知のとおりイヌにくらべたら、
よつぽどのバカで、そしてずうずうしいやつであります。
この虎猫も、あぶないところを神さまのおかげで命びろい
をしたということを忘れて、ご主人があまりほめそやす
ものだから、よい気になって、
「いや、まて、今、狼のやつが逃げたのは、やっぱりわがはい
さまのひとにらみに、おそれをなしたのにちがいあるまい。
してみると、おれも世間の人がいうように、ほんとに虎猫と
いわれるねうちがあるわい。
まてまて、ヒョッとしたら、おれは虎の生まれかわりかもしれないぞ。
そうだとすると、おれも人家に飼われて、お手伝いがごときものの
命令を守って、うまい焼き魚のにおいがしても、じっとしんぼうして
小さくなっているなんて、じっさい考えてみると、いくじのねえ話だな。
よしっ、おれも今日から大奮発して、もうネコは廃業して、ひとつ、
ほんものの虎になってやろう」
虎猫先生は、ついにこう決心いたしました。



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このページは、出口眞人が2010年8月20日 15:44に書いたブログ記事です。

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