歌劇 = 一幕一場
ーー近くに山を望む 村はずれーー
〔地歌〕 むかしむかし 大昔、あの山越えてまだ向こう、も一つ向こうのまだ奥に、
ひとりの爺さん住んでいた。
白い衣を身にまとい、
=この時、爺さん舞台の上手より出てくる= はだしで杖をば突きながら、
片手にさげた大鞄、爺さん村へやって来た。
野良から帰りの権作は、
=百姓権作出てくる= さてもふしぎなお爺さん、おまえはどこからやって来た。
してまたどこへ行くのです。
権作「お爺さん、えらいハイカラな鞄をさげてますね。いったい、その中には
何が入っているのです」
爺「わしは森からやって来たのだ。お金をもうけに来たのだ。眼玉を売りに
やって来たのだ。一つ買うてはくれまいかのう」
権作「なになに、眼玉をーー売りに来た?」
〔地歌〕権作眼玉をまるうして、両手を組んで見つめてる。爺さん平気で
鞄から、つまみ出したる大眼玉。
爺「なんとすてきな眼玉じゃろ。こいつが対で=と、二つ取り出し=
一銭五厘、もうそれいじょうは負けられないよ」
=この時すでに通りがかりの百姓太郎松、次郎助、お千代の三人、
両人のそばへ立ち寄っている=
太郎松=のぞきこんでだしぬけに=「それは安い、郵便はがきと
おんなじじゃ」
次郎助「ところで、お爺さん、いったい、この眼はなにになります?」
千代「なんぞの妙薬にでもなりますか?」
権「こりゃ吸い物にしたらよかんべい」
=といいながら、鞄の中から一つつまみあげる=
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