〔地歌〕鞄の中から取りだした、金金光る金印、右手に構えた大鋏、
チャキ チャキ チャキといわせれぱ 決心したる権作も、二、三歩後へ
タジタジタジ。
爺=権作を追うように近寄って=「さあ、眼をあけないか」
=権作ちょっとあけて、おそろしさにまたつぐむ。爺さん笑いながら何か
口の中で呪文をとなえて、左手に持っている眼を権作の左右両眼の上に
かわるがわる押しつける。この時、大鋏は眼の上でチャキ チャキいわすだけ。
と、たちまちすでに眼の玉は取りかえられている=
権=キョロ キョロ あたりを見まわして=「あっ、見える 見える、すてきに見える。
何もかも黄金色じゃ・・・妙 妙、 これは妙・・・」と喜びまわる。
太郎松、次郎助、お千代もこのさまを見て、われさきにとあらそって、
次「お爺さん、うらには、"美人印"を入れてくだされ」
千「うらは左に"お金印"、 右に"美人印"」とつめ寄る。
爺「待て待て、順番だ 順番だ」
=と制しつつ、まえと同じようにして手術をしてやる。手術が終わるや、
各自それぞれに=
次「これは奇妙、山も川もなんという美しさだ。あっ、お千代のカボチャづらが
観音さまのように見えだした。 ーーどこもかしこもまるで夢のような美しさだ」
千「オホホホ、アハハハハ、まアなんでこんなにうれしいのだろう。アハハハハ、
ああうれしや、おもしろや」
太=片手で右の眼をふさぎ、左の眼だけをあけて見まわしながら =「馬の
クソまでが黄金の塊に見えるわい。そこらの小石はみな金貨や銀貨ばかりじゃ。
ーーおっと、こちらはこうすれば」=で、こんどは右の眼をひらいて=「お千代坊の
あばたづらまでが、弁天さまに見えるわい」
=と、お千代を見あげる。お千代、わざとらしく口をとがらす=
四人「おっと、がってん」
=と歌に合わせて身ぶりよろしく四人は踊りはじめる。
爺さんは手をうって拍子をとる=その歌
めでたや めでたや めでたやな 「美人印」で見るなれば
かぼちゃのおかかが観世音 梅干し婆アが弁財天
めでたや めでたや めでたやな 「笑い印」で見るなれば
雷さんは高笑い 閻魔も地蔵に見えてくる
めでたや めでたや めでたやな 「お金印」で見るなれば
馬のクソでも金の山 木の葉、草の葉、札の束
〔四人合唱、調子かわる〕
森の神さん ありがとう 森の爺さん ありがとう
鞄いっぱい眼を持って 明日も忘れずやって来な
=かくて四人は下手に、爺さんは上手にそれぞれ退場
・・・幕・・・=
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